UGARITIC CUNEIFORM


 「ウガリト文字」とはウガリト語を記すための文字(楔形文字)です。地中海東岸に紀元前12世紀頃まで存在した都市国家「ウガリト王国」で使われていました。
 文字数が少なく形もシンプルなので、覚えたり書いたりする分にはとっても簡単です。ウガリトの神や人々の名前を楔形文字で書けたら素敵だと思いませんか? というわけで、楔形文字を勉強中の私と一緒にウガリト文字を覚えていきましょう!
 
 ◇このページは主に『ウガリト語入門―楔形表音文字』(谷川政美 著)を参考にして書かれています。
 普通に新品で買えるのでこれを読んだほうが早いです。ウガリト全般の簡単な解説のほか、ミニ語彙集もついています。
 
 ◇ウガリト神話については こちら で紹介しています(別窓)




◆もくじ◆



1 - 楔形文字2 - 表音文字3 - 文字の種類4 - 綴る方向5 - ウガリト神の名前6 - 母音7 - 音節文字





1 - 楔形文字


 古代文字の一種で、葦を削って角を作ったペンを粘土に押し付けて書きます。
 シュメル語やアッカド語、ヒッタイト語、フルリ語、古代ペルシャ語、その他いろいろな言語で使われていました。



2 - 表音文字


 字そのものに意味を持たず、音(音韻)のみを表す文字のこと。平仮名、片仮名、ラテン文字なども表音文字です。



3 - 文字の種類


 全部で30種類ほどしかありません。シュメル語やアッカド語などと比べるととてもシンプルです(以下の表参照)

 ※1 日本語の発音は便宜的にア段の発音で示し、発音方法が違う子音は平仮名表記で区別します。
 ※2 ウガリト文字には「Noto Sans Ugaritic」というオープンソースのフォントを使用しています。
      
No. ウガリト文字
Unicode 
音写 発音 発音の特徴
1.
U+10380
a 「ア」  
2.
U+10381
b 「バ」  
3.
U+10382
g 「ガ」  
4.
U+10383
「は」 6.「ハ」の喉音。喉をよく閉じて発声する
5.
U+10384
d 「ダ」  
6.
U+10385
h 「ハ」  
7.
U+10386
w 「ワ」  
8.
U+10387
z 「ザ」  
9.
U+10388
「は」 6. h の喉音だが、4. ḫ よりやわらかい
10.
U+10389
「タ」  
11.
U+1038A
y 「ヤ」  
12.
U+1038B
k 「カ」  
13.
U+1038C
š 「シャ、シ、シュ」  
14.
U+1038D
l 「ら」 L の発音
15.
U+1038E
m 「マ」  
No. ウガリト文字
Unicode 
音写 発音 発音の特徴
16.
U+1038F
「ざ」 英語の定冠詞theの th(ð) の音
17.
U+10390
n 「ナ」  
18.
U+10391
「ざ」 「ツァ」に近い。または「ざ」を強く発声する
19.
U+10392
s 「サ」  
20.
U+10393
「あ」 1.「ア」の喉音。喉をよく閉じて発声する
21.
U+10394
p 「パ」  
22.
U+10395
「ツァ、ツィ、ツ」  
23.
U+10396
q 「カ」 12.k の強調音
24.
U+10397
r 「ラ」  
25.
U+10398
「さ」 英語のthinkの th(θ) の音
26.
U+10399
ǵ 「が」 喉音。うがいをするときに出るような音
27.
U+1039A
t 「タ」 タ行の音。tiは「ティ」、tuは「トゥ」に近い
28.
U+1039B
i 「イ」  
29.
U+1039C
u 「ウ」  
30.
U+1039D
「サ」 正確な音は分からないが 19.s に準ずる



4 - 綴る方向


 アッカド語などと同様に、左から右へ綴ります。
 一部、右から綴られているテキスト(KTU4.31、4.710)もあり、これはフェニキア語独特のものだそう。


 

5 - ウガリト神の名前


 文字についてなんとなく分かったところで、そろそろ神々の名前を書いてみましょう!
 ウガリト神についてはこちら のページで解説しています(別窓)

※1 「ヤム」と「ナハル」は同じ神ですが、「ヤム・ナハル」とは呼ばれないのでここでは項目を分けました。
※2 名前の間に入る w は “〜” という意味ですが、ひとりを表す場合は便宜的に中黒で表記しています。
  (例:kṯr wḫss/コシャルハシス → コシャルハシス)

日本語 音写 ウガリト文字 名前の表記揺れ(備考)
バアル b‘l  
アナト ‘nt  
アスタルト aṯtrt アスタルテ、アシュタルト
(アッタル の女性形)
ヤム ※1 ym (海 の意)
ナハル ※1 nhr (川 の意)
モト mt モート(死 の意)
イル il エル、イルウ
アシェラト aṯrt アシラ、アシラト
コシャル・ハシス ※2 kṯr wḫss コシャルとハシス
(コシャロット の男性形)
シャパシュ špš シャプシュ
グパンとウガル gpn wugr グパナとウガル
アッタル aṯtr アシュタル
(アスタルト の男性形)
カディシュ・アムラル ※2 qdš wamrr カディシュとアムラル
ピドリヤ pdry ピドライ
タラヤ ṭly タルライ
アルツャヤ arṣy アルサイ
ダガン dgn ダゴン
ホロン hrn  
コシャロット kṯrt (コシャル の女性形)




6 - 母音


 5 - ウガリト神の名前 の表を見て気づいた方もいるかもしれませんが、ウガリト文字はほとんどの場合「母音」が省略されています。そのため、どの母音をあてるかは個々の場合に応じて決めていく必要があります。
 表記できる母音は a, i, u の三種類のみです。このうち i と u は、母音だけの音節があるフルリ語やアッカド語を書くために考案されたと考えられています。
 i は[e/ê]を、u は[ô]を表すことがあるそうです([ê]はイとエの中間、[ô]はウとオの中間の音)



7 - 音節文字


 ウガリト文字とメソポタミアの音節文字を併記したテキストも存在します(KTU5.14)。残念ながら三分の一ほど欠損しているそうですが、発音を理解する助けになるでしょう。
    
ウガ メソ
1. a a
2. b be
3. g ga
4. ḫa
5. d di
6. h ú
7. w wa
8. z zi
9. ku
10. ṭí
ウガ メソ
21. p pu
22. ṣa
23. q qu
24. r ra
25. ša
26. ǵ ḫa
27. t tu
28. i i
29. u u
30. zu








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