UGARITIC MYTHOLOGY

ウガリト神話(ウガリット神話)について紹介するページです。自分用メモも兼ねているため少々雑多(イラストはイメージです)。
最終更新:2019/03/14 ホロン、ヤリク、ニッカルの項目を追加。細部の微修正。

◆もくじ◆
ウガリトの神々ウガリト神話とは資料コーナー




ウガリトの神々 / UGARITIC DEITIES



バアル / Baal


 ウガリトの主神。嵐や雷をつかさどり、大地に恵みの雨をもたらす豊穣の神でもある。気が短く荒々しいところもあるが、基本的には分別のある性格。
 男兄弟との仲は険悪そのものだが、姉妹や女性陣(とコシャル・ハシス)とはすこぶる仲良し。妹にアナトがおり、娘(研究者によっては花嫁とも)が三人いる(→ピドリヤ、タラヤ、アルツァヤ
 ウガリト領北方の最も高い山「ツァフォン(ゼフォン)」の山奥に住んでいる。

 ウガリト神話で最も有名なのが、バアルの活躍を描いた『バアル神話(バアル・サイクル)』というテキスト群。『バアル神話』内に彼が雨を恵む場面はないものの、他のテキストでは人々がバアルに雨を求める描写が多々見られる。
 また、バアルとモトの争いは雨期と乾期の巡りを表すものだと解釈されている。

【名前について】
 個人名はハダド(ハッド、ハッドゥとも)。遅くとも前2000年紀にはすでに人気を得ていた。
  “バアル”は「主、主人」を意味する言葉だが、時代が下ると個人名よりも好まれる名前になった(他の都市のバアルと区別するために「ウガリトのバアル」「アレッポのバアル」等と呼ばれることも)。
  「雲に乗る御方」「大地の主」「アリヤーン(力強い者、勝利者)・バアル」「ダガンの息子」「最強の戦士(自称)」等、さまざまな別名を持つ。

【他の国でのバアル・ハダド】
 メソポタミアでいうところのアダド(アッドゥ)にあたり、ウガリトとはまた違った活躍を見せている。
 中王国〜新王国時代前半(前16世紀前後)にアナトとアスタルトを伴ってエジプト神デビューしたが、豊穣神的な性格を失って嵐と戦の神になった……が、のちにセト神の眷属という扱いになり、同一化される。





アナト / Anat


 美しく勇敢な戦いの女神で、バアルの妹。
 「乙女(処女、少女)アナト」「諸国民の義姉」「英雄達の女先祖」等と称される(『処女』は若い娘のことなのでヴァージンというわけではない)。
 常にバアルを助ける最大の協力者。自分の神殿がないことを嘆くバアルのために、神殿建設の許可を与えるようイルを脅迫……説得したが、これには失敗したもよう。
 バアルの宿敵であり、彼を亡き者にしたモトを粉々(要約)にして打ちのめすという輝かしい戦歴を持つ。

 何かと気まぐれで血の気が多く、突発的に虐殺を起こして楽しんだり、ダニエル王の王子アクハトに授けられた弓(コシャル作)を欲しがってすったもんだを起こしたり、バアルの使いグパンとウガルが訪ねてきただけで「バアルの敵がまた現れたのか!?」と震えたりする。
 一方で、おめかしをして竪琴を奏でながらバアルとその娘(または妻)たちへの愛を歌う場面もある。かわいい。
 移動するときはよく「速足」と書かれている。かわいい。

【他の国でのアナト】
 エジプトでも戦いの女神として信仰された。ラメセス二世のお気に入りの女神で、アナトのための神殿を建てたり、自分とアナトの像を作ったりした。彼の娘であるビンタナトは「アナトの娘」という意味の名前。





アスタルト / Astarte


 アシュタルト、アスタルテとも(アシュタルの女性形)。戦いや狩りをつかさどる美しい女神。
 「バアルの御名」「雌獅子」「恐ろしい豹」「狩人」等と称される。
 ウガリト神話内での活躍は少ないが、王家の敵を打ち倒す重要な女神として信仰された。ウガリトではアナトの活躍が目覚ましいが、レヴァント全体で見るとアスタルトのほうがメジャーで、主神の配偶者としてのポジションにあることが多い。
 神話よりも祭儀や呪術のテキストによく登場し、蛇の毒を散らす力を持った神のひとりとしても彼女の名が挙げられている。

【他の国でのアスタルト】
 メソポタミアでいうところのイシュタルにあたる(が、印象はだいぶ変わる)。後にはエジプトやギリシャにも紹介され、古代の人々に広く愛された女神といえる。
 エジプトでは、輸入された新しい戦争技術(武器、騎馬戦術など)をつかさどり、馬に乗った図像が多い。第18〜19王朝に属するテキスト『アスタルテ・パピルス』には、メンフィスを守護する工匠神・プタハの娘として登場し、貢ぎ物を要求するヤムへ交渉しにいく役目を負った。

【アスタルトは何を「非難」したのか?】
 バアルヤムを倒す場面に登場し、バアルを名指しで非難するが、その台詞を「撒き散らせ」と訳すか「恥を知れ(恥じ入る)」と訳すかで意味合いが大きく変わるという(目的語が書かれていないので断定ができないのだそう)。
 つまり、ヤムをコテンパンにしたバアルに対して「さっさとヤムを撒き散らせ!」と言っているのか、「なんだその手ぬるいやり方は!恥を知れ!」と言っているのか、はたまた「敵とはいえ何もそこまですることはないだろう!恥を知れ!」と言っているのか……。
 また近年では、この台詞について「バアルの御名を用いてヤムへ呪術を行使している」と解釈する研究者もおり、戦いや呪術をつかさどる女神の奥深さが感じられる。





ヤム / Yam


 海と川を司る神。イルアシェラトの子で「王子ヤム」「裁き手ナハル」「海の支配者」「イルの愛し子」等と称される。
 「ヤム」が海を、「ナハル」が川をあらわす。

 父親のイルから「ヤウ」という新しい名前を授かって披露宴を開いてもらったり、「神々が貢ぎ物をお前(ヤム)に納めるように」と布告してもらったりと、相当に目をかけられていたことがうかがえる。

 神々の集会場であるレルの山に使者を派遣してバアルを奴隷としてよこすように要求したところ、イルがそれを承認したためバアルが激怒した(アナトとアスタルトがバアルの両腕を掴んで止めた)。
 その後の戦いではバアルに「我らふたり(自分とコシャル・ハシス)の力では彼に勝てない」と弱音を吐かせるほど圧倒するが、コシャルの用意した二対の棍棒によって倒されてしまう。

 海の荒れ狂う様はヤムの仕業だと考えられており、それを鎮める者としてバアルが大事にされたという側面もある。
 またヤムについて述べている箇所では、海に棲む生き物として「竜」と「蛇」が引き合いに出されている。





モト / Mot


 モートとも。乾きと不毛を司る死の神。モトとは「死」という意味。
 イルの息子であり「イルの愛し子・勇士」「死と悪(モト・シャッル)」等と称される。

 自身の神殿にモトを招こうとするバアルに対して「お前を刺し殺してやれるのを忘れたか。私が飲むのは葡萄酒ではない。バアルよ、神モトの喉の中へぜひ降りてこい、大地の産物も木々の実りもすでに私が枯らしたぞ(要約)」と言い放つ。
 その伝言を聞いて恐れたバアルは「私は永久にあなたの奴隷だ」と返し、冥界へ降ることになる。

 バアルが冥界に降った後、兄を返すように迫るアナトに対して挑発めいた言葉を向けた結果、粉々にバラまかれて鳥の餌にされてしまう。
 そんな経緯もあり、バアルが復活したあと「お前のせいでとんでもない恥をかいた!」と怒り、壮絶な戦いを繰り広げた。最終的にはシャパシュの仲裁によって手を引くこととなった。

 地下世界に住んでおり、「天まで届く大きな口」でバアルを待ち構え、「海豚のような食欲」で絶えず人間を食いたがる。モトの喉は冥界の入り口であり、彼の身体は冥界そのものでもある。そんなモトの食欲旺盛な描写は旧約・新訳聖書にも多く見られ、彼の面影が偲ばれる。




イル / Il (or El)


 エル、イルウとも。ウガリト神話における最高神で、名前はそのものずばり「神」を表す。
 「慈悲深き神ラティパン」「歳月の父」「被造物の造り主」「牡牛」「(神々の)王」等と称される。

 二つの河が流れ出る源に住んでおり、八つの入口と七つの部屋を持つ神殿がある。
バアルの活躍が目覚ましいため彼の影に隠れがちだが、イルが万物の頂点にいることに変わりはなく、神々は何をするにつけ彼の許しを得る必要がある。
 白い髪と髭をたくわえており、娘のアナトからたびたび血で赤く染められそうになっている。

 『キルタの伝説』では、王妃と子供たちを亡くして悲しむキルタ王(ケレトとも)の夢に現れて、ウドム王の娘・フルリヤを手に入れるための知恵を授けた。また、キルタ王がアシラトの怒りに触れて病に冒された際「王の病を治す者はいないか」と七度神々に呼びかけたが、誰も名乗りを上げなかったため、最終的にイル自らの手で治すことになった。





アシラト / Athirat (or Asherah)


 アシラとも。イルの配偶神。
 すべての神々の母であり、「貴婦人・海のアシラト」「神々の生みの親(創造者)」「聖なる方」等と称される。海辺に暮らしており、夫のイルと出会ったのも海辺でのこと。
 イルの女性形で“女神”を意味する「イラト」と呼ばれることもある。

 神殿建設のとりなしをしてもらうため、バアルアナトがアシラトの元を訪ねた際は「なぜあのふたりがやってくるのか。私の親族同胞を滅ぼしにきたのか!?」と恐れたが、彼らが携えてきた見事な贈り物に喜んで、イルに神殿建設の許可を与えてもらうようとりなしてくれる。

 『キルタの伝説』において、キルタ王がアシラトへの誓いを果たさなかったために彼女のお怒りを受けることになる。
 また後期ヒッタイトの神話『Elkunirsa断片』には、イルにあたるElkunirsa、アシラトにあたるAserdus、バアルに相当するとされる嵐の神、アスタルト等が登場する。ここではなかなか大胆な女神の姿が見られる。





コシャル・ハシス / Kothar-wa-Khasis


 技術・工芸をつかさどる神。名前は「賢くて器用」のような意味。「コシャルとハシス」と呼ばれるが、一般的にはひとりの神として扱われる(神話テキスト内で彼を指す動詞が単数形のため)。
 「ハヤン」「海の子」「(神々の)集会の子」等と称される。

 バアルの数少ない協力者その2。ヤムを倒す二対の棍棒“追放”と“撃退”をバアルに授けた。また、バアルが神殿建設の許可を得るための贈り物をつくり、さらにその神殿の建設も彼が請け負った。
 つまり必要なものはだいたいコシャルが用意してくれる。コシャえもん……

 ヤムとの戦いで疲弊し弱音を吐くバアルに「あなたに話さなかったか? あなたがとこしえの王権を得るために、今こそ敵を打ち砕くのだと」と勇気づけたり、神殿に窓をつけるという提案を拒むバアルに対し「あなたは私の言葉を思い出すことになるだろう」と告げたりした。
 いずれもコシャルの言葉どおりとなり、ヤムは打ち倒され、バアルの神殿には開き窓がつけられた(家に窓を開けるのはクレタ様式からの輸入らしく、当時としては珍しかったかもしれない)。

 普段は「カフトル(クレタ島)」におり、有事の際にウガリトへ呼ばれる。エジプトの工匠神プタハのお膝元「メンフィス」も所縁のある地で、コシャルの別称をプタハの名前をもじったものとする研究もある。
 また、太陽の女神シャパシュの仲間・親友としてコシャルの名が挙げられており、彼女の旅路を阻む敵をコシャルが倒してくれるように祈願されている。





シャパシュ / Shapash


 シャプシュとも。太陽の女神で、名前も「太陽」を意味する言葉からきている。「神々の光」「神々のランプ」とも称される。

 バアルの数少ない協力者その3。実際の太陽と同じように地上と地下を巡り、地下世界(冥界)を通る際はシャパシュの元に死霊らが集まると記されている(『バアル神話』)。
 バアルが冥界へ降る際、身代わりの子をつくってから娘たちと召使いを伴って冥界へ降るようにアドバイスをした。その後、バアルの亡骸を見つけて泣きじゃくるアナトの元に降りてきて、彼女の肩にバアルを乗せて埋葬を手伝った。

 復活したバアルとモトが争う場面にも現れ「神モトよ、どうしてバアルと戦うのか? こんなことでは、あなたの父上・牡牛イルがあなたの王権を取り上げてしまわないだろうか」と忠告してモトに手を引かせた。
 また、この場面の後に続くシャパシュへの讃歌に、彼女の仲間・親友としてコシャルの名が挙げられており「コシャル・ハシスよ、シャパシュの敵を射てしまえ」と書かれている。

 『列王記』には彼女へ馬を献納し、彼女の乗り物を火で焼く祭儀があったと記されている。





アシュタル / Ashtar


 アッタル、アトタルとも。アスタルトの男性形。「恐怖のアシュタル」「獅子」と称される。
 神話テキストでは彼の性格を明確にすることはできないが、重要な役割を負った神であると思われる。
 バアルの死後、彼のかわりに王座へ着く者として選ばれたが、身の丈が王座に合わなかったため断念し、地上に降りた。









ダガン / Dagan (or Dagon)


 ダゴンとも。名前は「穀物」を意味するヘブライ語/ウガリト語、「魚」を意味するヘブライ語との関連を示す説があるが、はっきりとはわかっていない。

 バアルの別名「ダガンの息子」に名前が挙がるが、残念ながら神話テキストにはこれっきり登場しない。しかしラス・シャムラから見つかった2つの神殿跡のひとつは彼に捧げられたものとみられており、ウガリトにおいて重要な神であったことがうかがえる。

 オリエント全体でみてもとても古く、人気のあった神で、ユーフラテス川中流にあった都市国家マリにはダガンに捧げられた大神殿があった。





グパン、ウガル / Gupan and Ugar


 バアルの伝令役を務める神。グパンは「葡萄」を、ウガルは「畑」を表す。
 コシャル・ハシス等と違い、双数形の動詞が使われるためふたりの神とされる。いつでも行動を共にし、伝令を告げる際も一緒に口を開いている。
 バアルの伝言を伝えるためにどんなところにも行くよ!





ピドリヤ、タラヤ、アルツァヤ / Pidray, Tallay and Arsay


 ピドライ、タルライ、アルサイとも。バアルの娘たち、もしくは花嫁たちといわれる(あるいはその両方の可能性もある)。
 それぞれ「光の娘ピドリヤ」「雨の娘タラヤ」「大地の娘アルツァヤ」と称される。

 バアルが神殿を建てる際、窓をつけたがらなかった理由を「光の娘ピドリヤが逃げ出さぬように、雨の娘タラヤが飛び回らぬように」と語っている。かわいい。
 また、バアルが冥界へ降りる際、シャパシュのアドバイスに従ってピドリヤとタラヤを伴っていったため、光(雷)と雨が失われて世界はカラカラにひからびてしまった。





カディシュ・アムラル / Qadesh-wa-Amrur


 アシェラトの漁師、従者といわれる神。名前は「聖なる幸福」のような意味。
 「カディシュとアムラル」と呼ばれるがひとりの神として扱われる(神話テキスト内で彼を指す動詞が単数形のため)。
 バアルの使者はグパンとウガルだが、コシャルに使いを出すときだけはカディシュに頼むらしい(『バアル神話』)。





ホロン / Horon


 詳細は不明だが、冥界の神と考えられている。『バアル神話』では「ホロンに頭を砕かれろ」という呪い文句に名前が出てくる。
 ウガリト語の祭儀テキストや呪術テキストに現れ、蛇の毒を散らす神として重要な役割を果たす。
 
 シャパシュの娘を花嫁として迎えようとするエピソードがあり、そこでは「見目は良いが不能なのは困る」と一度は断られてしまう。その後、自力で不能を治療して再び彼女の元を訪ねる。





ヤリフ / Yarikh


 ヤリクとも。月の神で、「天から光を与える者」「神々の中で最も優雅な者」等と称される。バアルヤムのように「王子」と呼ばれることもある。

 ニッカルを花嫁として迎える神話では、彼女の父親であるハルハブに「バアルやアシュタルを紹介してあげるからそちらに行きなさい」と断られつつも、莫大な花嫁料を支払ってニッカルと結婚した。





ニッカル・イブ / Nikkal-wa-Ibbu


 夏の王ハルハブの娘で、月の神ヤリフの花嫁。
 「イブ」の正確な意味は不明だが「果物」「花」「多くの実りを与える者」等と解釈される。

 ラス・シャムラから発見された、世界最古の楽譜といわれる「Hurrian Hymn No.6」はニッカルの讃歌とされている。




追加予定の神々

 ・レシェフ — ラシャプとも。疫病と火の神
 ・コシャロット — 結婚や出産などの祝いの席に現れる女神たち(「コシャル」の女性形)
 







ウガリト神話とは / What's UGARITIC MYTHOLOGY?

 現在のシリア北西部にあった都市国家ウガリト(ウガリット)の神話です。
 ウガリトは長いこと場所が分からないままでしたが、ラタキアという街からほど近い「ラス・シャムラ(茴香の丘)」を耕していた農民が、壷や土器を偶然掘り起こしたことがきっかけで判明しました。

 その後発掘された粘土板の内容は多岐に渡りますが、その中でもとりわけ重要なのが神話テキスト群です。
 神話における最高神はイルですが、ウガリトは天水農業を主とする地域であったため、実質的に人気が高かったのは雨をもたらす神・バアルでした。発掘されたバアルの神話はウガリト語で書かれたものですが、この神話はウガリトに限らずシリア、フェニキア、パレスチナ全土にわたって浸透しており、多くの人々の生活に深く根を下ろしていました。


【ウガリト王国について】

 地中海に面したウガリトは、レヴァント(東部地中海沿岸の地域の歴史的な名称)屈指の貿易都市で、ヒッタイトの勢力下に入った後に最盛期を迎えました。
 北にはアナトリア、南にはエジプト、東にはメソポタミア、そして西にはキプロス島、さらにその向こうには地中海の島々が点在しており、ウガリトは交易の拠点として最適の立地でした。外交・通商・行政に関するさまざまな言語の粘土板が多数出土しており、各国の商人がウガリトを訪れて仕事に励んでいたことがわかります(クレタ人はウガリトへ常駐しており、独自の様式の住居を建てて暮らしていたようです)。

 ラス・シャムラからは王宮、図書館を備えた祭司の家、数多くの家屋や倉庫、そしてふたつの神殿の跡が見つかっており、これらの神殿はダゴンとバアルのものだとされています。また、ラス・シャムラの近くには「ミネト・エル・ベイダ(白い港の意)」と呼ばれる入り江があり、ここから墓所の遺構が見つかっています。

 前1200年頃にウガリト王国の歴史は終わりを告げました。発掘によってヘレニズム時代の住居跡も見つかったようですが、それ以降は誰もラス・シャムラに定住することはなく、3000年以上ものあいだ地中に埋もれて眠っていました。


【ウガリト語について】

 セム語のひとつで、地理的には北西セム語に分類されます(フェニキア語やヘブライ語、アッカド語、アラム語などと近しい関係)。
 ウガリト語では楔形の「ウガリト文字」が使われており、現在見つかっている文字の中でも最古の部類に入ります。文字数が約30種類ととても少ないことも特徴です。


【ウガリト神話と旧約聖書】

 ウガリト語の文法がヘブライ語に似ていることや、ウガリト神話に出てくる語句・言い回しがヘブライ語聖書にも多く使われていることがわかり、それによって聖書・ウガリト語テキスト双方の研究が飛躍的に進みました。
 ただ現在は、聖書や西セム諸族の神話研究において、汎ウガリト的な考え方がゆきすぎている状況を指摘する意見が多く見られます。同様にウガリト神話研究においても聖書中心主義的な傾向を批判されており、双方の密接で複雑な関係性がうかがえます。





資料コーナー / MATERIALS

ウガリト神話について書いてあるものをできるだけ多くまとめています。未読あり。


【再話本】


時系列がいまいち謎な神話テキストを物語仕立てにし、分かりやすくまとめたものです。入門向け。
(再話本は必然的に脚色が多いため、【神話テキスト】に挙げる本との併読をおすすめします)

『世界最古の物語 ― バビロニア・ハッティ・カナアン』H.ガスター 著/矢島文夫 訳 現代教養文庫(1989)
「カナアンの物語」にウガリトの神話と伝説が3篇収録されています。
※ 2017年9月に東洋文庫(平凡社)から新版がリリースされました→世界最古の物語 - 平凡社

『ヘブライの神話 ― 創造と奇蹟の物語 (世界の神話 4)』 矢島文夫 著 筑摩書房(1983)




【神話テキスト】


粘土板に書かれた神話テキストの日本語訳や、解説が読めます。

『バアルの物語 ―ウガリトの神話』 谷川政美 著 新風舎(1998)
神話テキストの対訳を始め、神話やウガリト語の文法に関する詳細な解説、旧約聖書との比較など、バアル神話に関してくわしい内容になっています。注釈も豊富で読み応え抜群。
現状入手が難しいですが、ぜひ一度は目を通していただきたい本です(図書館などにあるかもしれません)

『聖書以前 ―ギリシャ・ヘブライ文明の背景』C.ゴールドン 著/柴山栄 訳 みすず書房(1976)
『ウガリト文学と古代世界』C.H.ゴールドン 著/高橋正男 訳 日本基督教団出版局(1976)
ウガリト語研究の礎を築いた考古学者ゴールドン(ゴードン)の著書。いずれも古い本ですが一読の価値はあります。

『オリエント神話』 ジョン・グレイ 著/森雅子 訳 青土社(1993)
ウガリト神話単体ではありませんが、ここに挙げる本でほぼ唯一新品が定価で手に入ります(2017年9月現在)


『古代オリエント集 筑摩世界文学大系 (1)』杉勇 著 筑摩書房(1980)

『ウガリトと旧約聖書』P. C.クレイギー 著/小板橋又久、津村俊夫、他 訳 教文館(1990)




【事典系】



『世界神話大事典』イヴ・ボンヌフォワ 編 大修館書店(2001)
『神話研究におけるフランス学派の精華を集大成。デュメジルの比較神話学やレヴィ=ストロースの構造人類学の流れをくむフランス学派の専門家94名が執筆。相対主義の視点に立った編集。日本で未紹介の神話を多数収録。』(出版社コメントより引用)
Dictionnaire des mythologies(1981)の訳書。大型本(厚さ10cmくらいある)
「古代近東の神話・宗教」の項にウガリト神話の解説が収録されています。他の項目もたいへん面白いので、図書館などで見つけたらぜひ読んでみてください。 ※ 似た名前の事典が多いので注意

『古代オリエント事典』日本オリエント学会 編 岩波書店(2004)
『文明の揺籃の地である古代オリエントに関する日本人による世界で初の総合的事典。創立50周年を迎えた日本オリエント学会が総力を挙げて編集。環境・言語・宗教などテーマ別で概説する総論の部と、小中項目2000項目余の事典の部からなる。先史時代からサーサーン朝までを対象とし、古代オリエント世界全域をカヴァーする』(出版社サイトより引用)

『図説 古代オリエント事典 ―大英博物館版』P. ビエンコウスキ、A. ミラード 編/池田潤、山田恵子、山田雅道、池田裕、山田重郎 訳 東洋書林(2004)
『メソポタミア、イラン、アナトリア、アラビア、エジプトを網羅し、政治制度、宗教、戦争と武器、農業や商業、風俗習慣、女性や子供の地位、犯罪と罰則、文学、建築、美術・工芸、動物、植物、人物などを、最新の成果をもりこみつつ、平易に解説。350点の写真や図版、地図、各項目に付された参考文献、充実したクロス・レファレンス、詳細な素引』(出版社サイトより引用)




【その他】



『ウガリト語入門 ― 楔形表音文字』 谷川政美 監修 キリスト新聞社(2003)
文法書ですが、ウガリトの神話や歴史に関する基礎知識をまとめたページがあります。
粘土板テキストにみられる独特の表現について理解を得る助けになります。
(この本を使ってウガリト語を習得するには、ヘブライ語やアッカド語の文法知識が必要そうです……)

『オリエント』
日本オリエント学会が発行する機関紙『オリエント』のバックナンバーがJ-STAGE上で公開されています。




【日本語以外の本】



“Ugaritic Textbook” Cyrus H. Gordon(C.H.ゴールドン) 著(1965)
上述したウガリト語研究の第一人者・ゴールドンの代表的な著書。略称はUT。
ウガリト神話研究において基本となる資料のひとつ。ラス・シャムラから発掘した粘土板テキストの音写と一部英語訳がおさめられています。

“The Ugaritic Baal Cycle”(1994)
“Kothar Wa-Hasis, the Ugaritic Craftsman God” Mark S. Smith 著(1985)
アメリカで活動している聖書学・北西セム語の研究者の本です。
個人的に興味深いのは、コシャル・ハシスについて比較的詳しく書いているところ。博士論文(二つ目)ですでに彼を取り上げており、以降の著書でも彼について独自の調査・考察を交えて書いています。





【資料の略記】


上記の資料を読んでいて「この当然のように書かれてるアルファベット群は何!?」となったとき用。
代表的な資料の略称をいくつかピックアップしました(並び順:A→Z)


略記 書籍名 / 著者名
ANET Ancient Near Eastern Texts Relating to the Old Testament / James B. Pritchard
CTA Corpus des tablettes en cunéiformes alphabétiques découvertes à Ras Shamra - Ugarit de 1929 à 1939 / A. Herdner
CUL A Concordance of the Ugaritic Literature / Richard E. Whitaker
KTU The Cuneiform alphabetic texts from Ugarit, Ras Ibn Hani and other places / M. Dietrich, O. Loretz and J. Sanmartin
UT Ugaritic Textbook / Cyrus H. Gordon






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